冠動脈バイパス術とグラフト

私の得意な手術であります冠動脈バイパス術においてバイパスに使用する血管は、患者様ご自身の血管を用います。冠動脈は2㎜前後ととても細く、実際に吻合する血管は1.5㎜以下の場合も決して少なくありません。こんなに細い血管には人工血管をつなぐことが出来ないのです。というより対応できる人工血管が無いのが現状です。ですから、患者様ご自身の血管を用います。

私は主に両側の内胸動脈と大伏在静脈(足の静脈)を用いています。場合によっては胃大網動脈や橈骨動脈(手の動脈)を使わせていただくこともあります。少し難しい話になりますが、内胸動脈は弾性動脈で、動脈硬化の防御機構があるとも考えられています。要するに内胸動脈は動脈なのに動脈硬化が起きにくい血管といわれています。その結果冠動脈バイパス術には打って付けの血管なのです。内胸動脈を前下行枝に吻合するバイパスは、いわゆる“ゴールドスタンダード”といわれています。また内胸動脈を1本用いるよりも2本用いる方が、長期予後(たとえば術後10年の生存率)がより良いと報告されているのです。ですから積極的に両側内胸動脈を用いて冠動脈バイパス術を行っています。その次に用いているのが大伏在静脈です。最近の冠動脈外科学会のデータでは、日本において冠動脈バイパス術に使用するバ血管(グラフト)の約40%が大伏在静脈であるとの結果も出ており、とても一般的なものです。特に術後にはコレステロールの管理をしっかりと行うことで、以前のデータと比べて長期的に良い結果が出るだろうといわれています。ですからストロングリピットコントロールといって悪玉コレステロール(LDLコレステロール)の値をぐっと下げたり、悪玉と善玉(HDLコレステロール)の比率を1.5以下にするように心がけています。また内胸動脈と胃大網動脈、橈骨動脈はハーモニックスカルペルという超音波の手術器具を用いスケルトナイズ法にて丁寧に採取しています。私は多い時には7~8か所のバイパス吻合を行いますが、病変を持った血管に少しでも多くの血液が流れるように願って吻合しています。でも何本つなげても内胸動脈が前下行枝にしっかりとつながることが一番大切です!冠動脈バイパス術における全ての基本はここだと思います。

心臓血管外科 菊地慶太

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