大伏在静脈について

大伏在静脈冠動脈バイパス術に広く用いられています。現在世界で最も使用されているグラフト(バイパスに用いる血管)です。でも問題が少しあります。Vein diseaseといい、静脈なのに動脈硬化のような変化をしてバイパス後に血管が閉塞する率がちょっと高いのです。10年間の開存率はおおよそ50~60%と報告されてきています。内胸動脈はそれより20%くらい良いですからですから先にお話した内胸動脈が優れているという事の裏付けにもなります。でも世界で一番使われています。なぜかというと採取しやすく、十分な長さが得られ、バイパス吻合時も縫いやすい事などが挙げられます。当然ですがコストもほとんどかかりません。最近では内視鏡による採取方法も盛んに行われており、小さい傷で長い大伏在静脈が採取できるので患者さんにも喜ばれています。しかし、長期的にみると利点より欠点がクローズアップされてきます。そうです先ほどお話した通り長期生存率が低くなってしまいます。その欠点を補うべく様々な研究がされており、近年大伏在静脈の採取時の損傷(血管内皮:血管内の内側の繊細な壁に傷がつく)によって大伏在静脈が長持ちしなくなってしまうといわれ始めました。逆に言うと、私たち外科医が思うよりはるかにデリケートに扱うと、大伏在静脈も長期的にみてとても良いグラフトといえる。と報告されています。その採取方法は大伏在静脈周囲の脂肪組織をしっかり残して静脈には一切触らずに愛護的に採取します。大伏在静脈を拡張させる時も、患者さんの動脈圧のみで拡張させるとない日が傷まないと報告され、内視鏡による大伏在静脈の採取方法は一番ダメージが大きいとも報告されています。でもこの採取法の問題点は足の傷の治りが悪くなる患者さんがちょっと増えることです。そうなると当然入院期間も長くなります。痛しかゆしといったところではありますが、長期予後が良い方が結果的には皆さんにとってメリットは大木のではないでしょうか。なかなか難しいところですがさらに研究は進行中です。IMG_3307心臓血管外科医 菊地慶太