以前お話したOPCAB(オフポンプCABG)は人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術ですが、ONCABは人工心肺を使用する冠動脈バイパス術を指します。ONとはOn pumpという意味でポンプ(人工心肺)を用いた。という意味です。このONCABには2つの方法があります。一つは昔ながらの心臓を止めて吻合を行う方法で、多くの心臓外科医はConventional CABG呼びます。もう一つはOn pump beating CABGといい、人工心肺を用い循環(血圧など)を補助しながら心臓を動かしたままで吻合する方法です。何が違うかといいますと、心臓の動きを止めるか止めないかというところが大きく違います。心臓を止める時間が長くなると、心臓の筋肉に対する障害(心筋障害)が出ることがあります。そうなると心臓の動きが悪くなることがあります。その予防のために心臓を止めずに手術を行うことを考えます。たとえば弁膜症に対する弁形成術や弁置換術を一緒に行うときは、私は最初に心臓を動かしたままで冠動脈へのバイパスを行い、その後心臓を止めたのちに弁の手術を行います。また急性心筋梗塞などの患者様では、心臓を止めると動かなくなってしまったり、強いダメージを受けることもあるため、心臓を拍動させたまま、人工心肺で循環を維持して手術を行います。当然心臓を止めてすべての手術を行うこともあります。様々な方法を自分の引き出しに持ち、どれが一番安全で確実なのか瞬時に考えて治療を行っていくのがプロの外科医です。
心臓血管外科 菊地慶太